オーディオキネマ様 取材レポート|Zoomを用いたオンラインオーディション

オーディションプラスでは、さまざまな団体にお邪魔して、取り組みを客観的に掘り下げていく企画「オーディションプラス取材レポート」を展開中です。
表現者を志す方、団体を運営されている方だけではなく、芸能活動の内情を知らない方々にも、この企画を通して表現活動の魅力を発信して参ります。

 

今回取材させていただいたのは、時代劇の本格オーディオドラマを制作されている『オーディオキネマ』さん。
新型コロナウイルスの流行により、活動の見通しが立たない中で、それでもドラマ作りへの歩みを止めないためにと、この度初めてのオンラインオーディションを開催されました。
会話演技で成り立つドラマの制作は、非常に繊細な作業です。直接会わず、オンライン上で審査をするためにどのような工夫をされたのでしょうか。
Web会議アプリケーション「Zoom」を用いた、オーディションの内容をお届けいたします。

取材・文:嶋垣くらら

舞台俳優・声優

Twitter:@kanikama444

 

オーディオキネマとは

オーディオキネマは、2015年に設立された時代劇専門のドラマCD制作会社です。
http://dramacd.moo.jp/

 

「オーディオ」とは音声、音響の意味。「キネマ」とは、キネマトグラフの略で、映画、活動写真を意味します。
筋書きやセリフだけでなく、音楽や効果音にまでこだわることで、作品を聴いた人が「まるで映画を観たかのよう」「まるで小説を読んだかのよう」に物語を味わえる、新しいオリジナルの時代劇を制作されている会社です。

 

代表を務める山中勇人さんは、日本映画学校を卒業後、映画制作現場の助監督などを経て、オーディオキネマを立ち上げました。国民的文化である時代劇が、世代を越えて愛され続けることを願って、ドラマCDの企画開発から制作、販売までを手掛けています。

 

その第一弾となった『研ぎ師伊之助深川噺』では、ベテラン声優陣をキャスティングした、本格的な時代劇ドラマを制作。今回は二作品目となる、『瞽女(ごぜ)さ夢見じ』のオーディションです。

 

オーディオキネマ

現在販売中のドラマCD『研ぎ師伊之助深川噺』。出演声優の欄には、錚々たる名前が連なっており、圧巻です。

 

オンラインだからこそ問われる「自主性」

5月31日。この日のオーディションは13時から開始予定で、その30分前からZoomの部屋が開かれていました。参加者にはルームのURLが配られており、指定された時間にアクセスすることでオーディションに参加できます。

 

筆者はオーディションが始まる数分前に入室をしましたが、参加者のマイクがハウリングを起こすなどのトラブルがあり、少々慌ただしい様子でした。かくいう筆者も、直前になって慌てて機材を調整しておりましたので、自宅から参加ができるといっても、余裕を持って準備をしなくてはなりませんね。

 

はじめに、オーディオキネマ主催の山中さんから、企画概要と、オーディションの流れについて説明がされました。そのあと、30分程、参加者それぞれでシナリオを読み込む時間が設けられました。使用するシナリオはルーム内のチャット機能を使って共有されており、そこからダウンロードや印刷ができます。

 

この時間、参加者はビデオを切り、マイクをミュートにしていたため、それぞれがどのように過ごしていたのかはわかりません。ひたすらシナリオを黙読する人もいれば、声に出して台詞の練習をしていた人もいるかもしれません。各々がマイペースに、自分のやりたいことにベストを尽くせるのは、今回感じたオンラインならではのメリットです。自分だったらこの時間をどう活用するか、そんなことを考えさせられました。

 

オーディオキネマ

シナリオを読み込んでいる時間の画面の様子。。画面右の「グループチャット」を通して、山中さんからシナリオが送られていました。

 

30分が経ったらルームに再集合し、まずはシナリオを読んだ感想を挙手制で聞いていきます。
全体を通して、山中さんは参加者の自主性に委ねた進行をしており、この後行われた演技審査も、やりたい人から順番に、という形で進められていました。

 

Zoomはタイムラグが発生しにくいアプリケーションではありますが、通信環境によっては、若干の遅延が発生することもあります。少しのためらいで、発言のタイミングを逃すこともあるかもしれませんので、オンライン上でのオーディションは、いつも以上に積極性が求められるという印象がありました。
このオーディションでは、ビデオ(参加者の顔出し)の指定はなかったようですが、視覚からの情報があると、よりコミュニケーションも円滑になりますので、可能であれば使えるようにしておくとよいでしょう。

 

参加者全員が同じ場所に集まっていれば、他の人の様子を探ったり、空気を読み合ったりすることもできます。しかしオンライン上では、それぞれが離れた場所にいるため、周りを伺うよりも各々が自発的に考え、進んで行動するという意識が必要になるのです。

 

オーディオキネマ

ビデオ通話を利用すると通信が重くなり、音声に乱れが発生することもあります。利用の際には通信環境を確認しておくことをおすすめします。

 

オンラインでも深められる演技表現

今回のオーディション対象である新作オーディオドラマ『瞽女(ごぜ)さ夢見じ』は、幕末に実在したという盲目の芸能者を取り上げた作品です。オーディションで用いられた冒頭部分では、盲目の少女「おきね」が村を出て、瞽女屋敷に修行を志願しにいくまでが描かれています。会話から見える繊細な感情表現が鍵となる内容です。

 

オンラインでは、それぞれが同じ空間にいないことや、通信環境の違いから、他の人と息を合わせての会話演技は、正確にできない場合もあります。
それを考慮して、今回のオーディション審査では演技そのものだけではなく、演技以外の対話にも重きを置かれていました。

 

例えば、ある参加者が「繊細な表現が光る台本であった」と発言すれば、山中さんからは、「具体的にどの辺りでそう感じたのか?」と質問が返ってきます。役者の意見を深く掘り下げることで、役者個人の持つ感性や想像力、思考力を図ることができます。

 

演技審査の合間にも、作品についての対話が多くありました。対話により、時代背景やキャラクター同士の関係性などが実感として台詞に乗り、演技に具体性が増します。お互いが離れた環境にいても、ドラマが立体的になっていく過程を垣間見ることができました。

 

こうした制作側の緻密な作業が、全てお客様に知ってもらえるわけではありません。しかし、台詞の一言一言にかけられた手間は、「味わい」として確かに伝わっていると、山中さんは仰っています。
聴き手からは直接見えない作業を、どこまで楽しんで取り組めるかで、作品が持つ味わいの深さは大きく変わってくるのです。

 

 

声優の現場で求められる、理解力・調和力

ボイスドラマでも、吹き替えでも、アニメでも、収録の現場は常に時間との勝負です。声優が事前にシナリオをよく理解し、現場で確実に結果を出すことで、作品のクオリティーは支えられています。
また、シナリオについて全員が共通の認識を持つためには、演技以外でのコミュニケーションが必要不可欠です。全員の認識が噛み合わないままでは、良質な作品を作ることはできません。
そんな実際の現場で大切な「理解力」と「調和力」があれば、収録特有の困難な状況も、一緒に乗り越えていけるだろうというのが山中さんの考えです。

 

オーディションとなるとつい、良いところを見せたい気持ちから「台詞をどう言おうか」という意識にとらわれがちです。しかし、ドラマを成立させるためには、シーンの中で「誰が、いつ、何に関心を持っているのか?」「何のためにそのキャラクターは存在するのか?」など、シナリオ全体の構造を丁寧に紐解き、理解した上で臨まなくてはなりません。

 

また、役者とディレクターや、役者同士などで、お互いの考えが一致せず問題が発生することもあります。そういった問題を迅速に解決するためには、自分の考えを伝える力と、相手の話を聞く力が必要になります。作品の質を上げるためには、遠慮なく意見を交わせる信頼関係が必要ですし、信頼関係を構築するには、お互いの意見を尊重する心も必要になります。

 

山中さんが参加者の意見を熱心に聞き、言葉を返す様子からは、対等な立場で協力して作品を作っていきたいという思いが伝わりました。また、その思いを受け取った参加者の作品に対する熱も高まっていったように感じられました。

 

表現活動において、人との関わりを制限されながら続けていくことは容易ではありません。しかし今回、リモートの対話からでも、演技表現に役立てられることが大いにあるという発見ができました。良い作品を作るために、演技をする時間以外にも、自分でやれることや、協力してやれることがあります。
参加者の方々にとっても、今回のオンラインオーディションは、仕事への向き合い方を考えさせられる、有意義な時間となったのではないでしょうか。

 

オーディオキネマ

筆者の自宅からオーディションを見学する様子。Zoomはスマートフォンでも利用できますが、パソコンだと全員を一画面で表示することができます。この日の審査には20人以上が参加しており、オンライン上でこの人数を一度に審査することの大変さも体感することができました。

 

取材を終えて

オーディオキネマ様による、オンライン向けに考えられたオーディションは、演技の実践からその前準備まで、”自分の頭で考えて”取り組むことの重要性を再認識させられる内容でした。

 

『瞽女さ夢見じ』は、盲人の芸能者を主役にした作品です。見える人と見えない人がいるという、音だけで再現するのが非常に難しい世界観になりますが、オーディションで選び抜かれた方々と一緒にどう考えて、表現してくれるのかがとても楽しみです。

 

オーディオキネマ 主催・山中勇人様からのコメント

オーディションを終えて

オンライン審査を開催してみて感じたのは、参加者の皆さんのリラックスした表情が印象的だったということです。慣れた自宅からの参加、自分で用意したカラオケルームからの参加など、審査開始までの準備を自主的に行うからこそ、そんな雰囲気が生まれたのではないでしょうか。主導権は、あくまでも主催者側にありますが、かなり、五分のお付き合いができたと思っております。これは、演技表現にも、如実に現れていましたね。

 

そして、弊社のオーディションは、審査で使用する原稿が「長い」という特徴があります。今回も、9ページにおよぶシナリオ冒頭部分を審査前に読み込んでいただきました。そのために30分という時間を要しておりましたが、これをプライベートな空間で行えるのが、オンラインの素晴らしいところだと感じました。皆さんにとっても、そこは大きなメリットだったのではないでしょうか。これも、演技表現に反映されることなので、審査を見る側にとっては有益な効果ですね。

 

審査中はというと、想定内ではありましたが、オンラインならではの問題点も発生しました。ネット環境の不安定さにより音声が届かないことや、一台の端末が拾ったノイズが全員に流れてしまうことがありました。そして、画面を通して共演することが困難であることなど。しかし、これらは、審査する要素をあらかじめ決めておけば問題ないと思います。

 

この度の私は、「共演するための演技表現技術」については、ほとんどの場合で審査要項から除外させていただきました。ここのテクニックをオンラインで確認することは、なかなか難しいと判断したからです。今回は、そこを拝見しない代わりに、シナリオの理解力に時間を割かせていただきました。シーンの構成、セリフの解釈、キャラクターの理解などですね。参加者の中には、審査中は、演技表現を見せるだけだと思っていた方もいたでしょう。そんな方は、こちらから根掘り葉掘りと質問されたことに驚いたかもしれませんね。でも、本来は、「脚本・演出を担当した者」と「出演者声優」とでは、こういったドラマへの分析に時間を割くのがベストだと思います。ここの信頼関係があれば、演技表現などは、必ずなんとかなるものだと思いますからね。

 

少々脱線しましたが、オンラインをうまく活用することは「出来る!」と感じることができたオーディションでした。現在は、第二回オーディションも開催決定しましたが、より双方にとって質の高いオーディションが行えると思っております。このスタイルは、今後も継続されていくだろうと感じております。

 

オーディオキネマの今後の活動について

今後の活動は、新企画の制作にまだまだ時間がかかると思っています。
そして、制作予算の少ない弊社のような制作事務所は、ウイルス感染の危険を回避するための余裕を持った録音制作体制を用意することが難しい状況です。ですので、しばらくは、世の中の様子を見つめながら、新しいシナリオ開発を行っていくと思います。そして、新作『瞽女さ夢見じ』にご協力いただける声優さん、技術スタッフを探すことに専念してまいります。

 

弊社では声優ワークショップも実施しております。作品への出演に興味のある方の参加を待っております。
ワークショップのラインナップは下記より
http://dramacd.moo.jp/workshop.html

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