プロジェクト「Act」Tokyo様 取材レポート|信頼関係から、本当の意味で自由な表現を目指す

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プロジェクト「Act」Tokyo様 取材レポート|信頼関係から、本当の意味で自由な表現を目指す

オーディションプラスにて出演者を募集している団体にお邪魔し、その取り組みを客観的に掘り下げていく企画「オーディションプラス取材レポート」。
この企画では、表現者を志す方、団体を運営されている方だけでなく、芸能活動の内情を知らない方々にも向けた、さまざまな表現活動の魅力を発信して参ります。

 

今回は、2018年1月に立ち上げ、舞台演劇、写真撮影、一般向けの演劇ワークショップなど幅広く活動をされている表現団体のプロジェクト「Act」Tokyoさんを取材しました。

 

プロジェクト「Act」Tokyoでは「人生が豊かになるような何かをお客様の心に残す」をテーマに、役者と制作が一丸となっての芝居作りが行われています。

 

プロジェクト「Act」Tokyo

 

取材・文:嶋垣くらら

舞台女優・声優

Twitter:@kanikama444

 

4時間かけて行われるオーディション

この日は、4月30日から上演予定の新作公演「La Vita e Bella-とある優等生と壊れた世界」の出演者オーディションが開催されました。(こちらのオーディションは現在、開催継続中です。募集締切:3月31日)

 

プロジェクト「Act」Tokyoでは俳優の真の適応力や演技力を図るため、また俳優と演出の相性を確かめるために、1回あたり約4時間をかけた演技審査が行われます。

 

こうした形式の審査はワークショップオーディションと呼ばれ、他の団体でも行われていますが、これだけじっくりと時間をかけた審査は珍しいと感じました。

 

「ワークショップ」とは、日本では体験型の講座を意味します。演劇のワークショップオーディションにおいては、その団体の芝居作りを体験することで、演技の方向性や相性を知ることができるというメリットがあります。

 

プロジェクト「Act」Tokyo
右から、演出を務めるプロジェクト「Act」Tokyo代表の安城龍樹さんと団員の大関愛さん。今作はダブルキャストでの公演となっており、それぞれ別のチームの演出を受け持ちます。

 

まずはウォーミングアップ。

 

輪になって順番に、連想した言葉を発するシアターゲームから始まりました。
「しじみ」→「味噌汁」→「しみる」→「傷口」→「ばんそうこう」→「箱」→「段ボール」→「茶色」→「木」→「割りばし」→「二つ」→「チップとデール」…
心のままに、好きなタイミングで言葉を発して繋げていくことで、役者の持つ発想力を引き出しながら、自然な対話の呼吸をつかむことができます。

 

次は単語のキャッチボールのゲーム。お題に沿った単語を言いながら、見えないボールを人から人へ受け渡ししていくというものです。
例えばお題が「果物」なら、1人目「みかん」、2人目「りんご」、3人目「キウイ」と、ボールを回す順番と各人が発する単語を決めます。これを「果物のボール」とします。

 

やってみるとこうなります。まず1人目が2人目の人に向かって「みかん」と言いながらボールを投げるマイムをします。2人目はそのボールを受け取ったら、今度は3人目の人に向かって「りんご」と言いながらボールを投げるマイムをする、といった感じです。全員にボールが回ったら、また1人目に戻って同じパターンを繰り返していきます。

 

こんなふうにボールが1つだけなら簡単ですが、ここに「スポーツのボール」などを増やすことで、グンと難しくなります。発する単語と、順番が異なるボールを並行して回していくことで、集中力が鍛えられるトレーニングとなります。

 

この後の演技審査で自然なアクティングができるよう、対話に必要な情報の発信と受信、両方の意識を高められる内容となっていました。

 

プロジェクト「Act」Tokyo
ウォーミングアップに一緒に参加する安城さんと大関さん。「カバディ!…あ、梨!」「果物のボールが消えていましたね(笑)」

 

そしてここからは、台本を使った演技の実践に入ります。
プロジェクト「Act」Tokyoでは、審査に先立って一人一人と面談をし、公演参加の意志を確認した上で、実際に公演で使用する予定の台本を渡しています。
役者は準備をして審査に臨むことができるので、持っている力を余すことなく発揮することができます。

 

プロジェクト「Act」Tokyo
いただいた上演台本。作品の全体像を掴むことで、役柄や台詞の理解度が大きく変わってきます。

 

役者と演出、共同作業での芝居作り

まずは、今回のオーディションに参加した三名の女性の役者が、”黒猫”役のシーンを演じました。
この役は、物語の要所で、主人公である聡介に意味深な言葉をかけていく、猫の幽霊です。解釈に幅が出るファンタジー要素の強い役どころです。
演技を見たあとに、「今の演技は、どんな意識で演じましたか?」と、役者に演技の意図を確認します。

 

「子供のような無邪気さがあるのではないか」
「挑発的な色っぽさがあるのではないか」
「黒猫は聡介自身で、これは自分の中で対話をしているのではないか」
「聡介に何を言われるか、全てわかった上で話しているのではないか」

 

などなど、役者から様々な演技の解釈が返ってきます。

 

それに対して、演出の大関さんは、「距離感の近さが伝わってきたので、次はより年齢感を下げて、遊ぶように演じてみて下さい。」「神々しさというか、幻覚のようなものに見えました。体の使い方や台詞の出し方に緩急をつけると、より引き立つと思います。」というように、演技から伝わってきたものを述べられた上で、演技を深めるための提案をされていました。

 

プロジェクト「Act」Tokyo

 

実際の稽古であれば、作品に求められる方向に寄せていく必要がありますが、このオーディションの中では自由に想像して演じてもらうことを重視されていました。

 

審査を受けている立場からすると、良く見られたい意識が先行してしまいがちですが、この日参加していた皆さんは、ノビノビと個性を発揮されていたように思います。

 

役者の自主性を尊重した現場

この後、一名の男性の役者が合流し、主人公の聡介とヒロインの涼子のシーンを作っていきます。

 

まずは、役者同士で話し合いや読み合わせをする自主稽古の時間が1時間設けられました。
初めのうちは戸惑いも見られましたが、次第に、進んで読みあわせをしたり、動きを確認したりする様子が見られるようになりました。

 

役者に考えさせることで、演出の指示に従うだけではない、芝居作りに対する自発性や実際に現場に関わったときの姿勢を知ることができます。

 

1時間の自主稽古をした後、演出がそれぞれの芝居を見ていき、その後、全員でディスカッションが行われました。

 

涼子がどんな人物なのか、言動や行動パターン、聡介との関係性などから紐解き、考えを出し合います。

 

プロジェクト「Act」Tokyo
参加者の意見に耳を傾ける演出のお二人。役者が言葉に詰まった時も、根気よく向き合い続けているところが印象的でした。

 

「プライドが高く、他人に弱みを打ち明けられないタイプでは?」
「自分を持っているようで持っていないのではないか」
「この台詞は自己評価の低さから出ていると思う」

 

さらに、安城さんの「この役を一言で表すなら?」という問いかけに、役者からは「素直さ」「渇き」「不器用」という回答。その後、役者それぞれの解釈が演技に乗せられるよう、演出がサポートされていました。

 

あくまで正解はない、というのがプロジェクト「Act」Tokyoにおける芝居作りのスタンスであると感じました。

 

プロジェクト「Act」Tokyoの台本が持つ役割

プロジェクト「Act」Tokyoの脚本を手掛けているのは、代表を務めている安城さん。彼の本には、台詞として語られることのない文章がたくさん散りばめられていました。

 

時代背景や人物の生い立ち、状況説明や心境など、箇所によっては1ページ以上にわたる長文で記載されているところも。非常に読みごたえがある内容です。

 

オーディションでは、この台本から役者が何を感じ取ったのか、表現に出そうとしているのかを盛んにたずね、演出と役者が対等に意見を交わしていました。

 

ここでは役者と制作が一丸となった芝居作りを大切にしているため、役者自身が考えを持って参加することが重要になるのです。

 

審査前に、出来上がった台本を渡していることも、その一環です。役者が台本をどれだけ読み込んできているかが分かれば、作品に参加する意気込みを知ることもできます。

 

演出と役者との間で上下関係を敷かず、一緒に台本を読み解き、演技を実践していく様子からは、表現の可能性の広がりを感じました。この方達が生み出す作品はどんなものになるのか、とても楽しみになりました。

 

プロジェクト「Act」Tokyo
役者と同じ目線に立って話をする演出陣。一緒に考えて、答えを導き出そうという姿勢が伝わってきました。

 

自由で直感的な芝居作り

審査で使われたシーンの台本には、台詞以外の心理描写が多くあり、言葉を使わない表現が求められていました。

 

例えば「叫ぼうと思ってやめた」というト書きに対しては、どうすればそこにたどり着けるのかを考える必要があります。台本に書かれていることだけで演技しようとしても、上手く感情が乗りません。

 

”台本に捉われず色々な考えがあっていい”という雰囲気作りがされているため、役者も積極的に様々なアプローチを試み、その度に新鮮な声の響きや、呼吸、会話のテンポが生まれていました。

 

演出の指示に従うだけではなく、役者自身が持つ発想力から芝居を作っていくことでシーンが立体的に浮かび上がっていきます。参加者の皆さんも次第にオーディションのプレッシャーから解放され、演技をより楽しめていたように思います。

 

プロジェクト「Act」Tokyoは「劇団」を名乗らない表現団体であり、映像やさまざまな表現方法に通用するようなアイディアを常に追求しています。彼らにとっての舞台演劇は、人が本来持つ感性の豊かさを解放するための手段の一つに過ぎないのです。

 

プロジェクト「Act」Tokyo
オーディションの終盤。少し行き詰まったところで「何か叫ぼうか」ということになり、一分間「しゃもじ」を全員で叫んでいました。発散することが目的で、言葉自体に特に深い意味はないようです(笑)

 

プロジェクト「Act」Tokyoさんに聞いてみました

 

―― プロジェクト「Act」Tokyoを立ち上げたきっかけは何ですか?

 

代表の安城のそれまでの経験から「小劇場で経験を積みながら本気で上を目指している役者のための現場を作りたい」と思い立ち上げました。表現を探求できる脚本と、役者自身の想像力/創造力を生かした作品作りを大切に、これまで公演を行ってきました。

 

―― 「劇団」という形をとらず、幅広く活動をされている理由をお聞かせ下さい。

 

演劇はあくまで「表現の方法」のひとつと考えています。形に拘ることなく今いるメンバーの技術や能力を最大限活かして活動し、それぞれの活動で培ったモノをフィードバックすることで、相乗効果を生み出そうという狙いもあります。

 

―― プロジェクト「Act」Tokyoさんが舞台演劇を通して表現したいことは何ですか?

 

日常生活がスマートフォンやPCで完結してしまう今だからこそ、その一瞬そのひとときを人肌で感じ合い、人と直接語り合えるような場所を提供したいと思っています。

 

―― 現在の手法のオーディションはいつから実施されているのでしょうか?また、それによりどんな効果がありましたか?

 

第三回公演(2018年11月)から実施しています。
台本を早い時期にお渡しするので、演技審査で役作りを完璧にしてこられる方もいました。事前に台本や役について考える時間が必然的に生まれるため、実際の稽古の進行がとても効率的になりました。

 

―― 選考の際、特にどういった点に着目していますか?

 

「募集する役のイメージに合っているか」「演出の方向性に順応できるか」「お互いに信頼関係を築けるか」。事前に台本を渡している方については、「どのくらい準備をしてきてくれたか」などの点です。

 

―― オーディションを開催する際、心がけていることはありますか?

 

オーディションの場は「制作側が一方的に実施して選んで落とすための場所」ではなく、「役者、制作一丸となってよりよい作品を作るための信頼関係を築く場所」であると考えています。お互い納得いくまで突き詰められる、プロジェクト「Act」Tokyoでは面談と演技審査を両方行っています。

 

まず初めに面談を通して「本当に参加したいかどうか」を応募者の方と一緒に確認します。公演の概要や台本の内容、お芝居の方向性を明確にすると同時に、団体の雰囲気なども見ていただきたいと思っています。
その上で、参加のご意志にお変わりないかを伺って、OKの場合は演技審査に来ていただきます。

 

演技審査では、応募者の方に実力を最大限発揮していただけるように、毎回可能な限り早い段階に上演台本と演技審査用の台本をお渡ししています。そうすることで演技審査の時間を長く取れるため、求める演技のスタイルや表現方法など演出家と役者で方向性が別れる点についてじっくりと確かめられます。

 

面接だけでなく、より稽古の現場に近い演技審査を行うことで演出家と役者のやりたいこと、作りたいものの方向性が一致しているかどうかお互いに確認しやすくしています。

 

―― 団体としての今後の目標はありますか?

 

最終的には海外に活動を広げ、団体をより広く大きな視点を得られるような環境にしたいという目標があります。
そのために、言葉や音、視覚、常識を超えた表現方法も日々模索しており、自由で直感的な「本当の意味で誰もが楽しめる演劇」を作りたいと思っています。

 

取材を終えて

4時間という長丁場のオーディションでしたが、非常に密度が濃く、レベルの高い内容でした。

 

その中でも特に印象に残ったのは、安城さん・大関さんが共に役者の考えを引き出すことに専念していたことです。

 

演技をする上で、目的意識がなければ人に何かを伝えることはできません。その目的は誰かから与えられるものでもありません。
今回の取材を通して、芝居は「自由」であり、だからこそ役者自身で考え、自身の発想力で芝居を押し上げてほしいという信念が伝わってきました。

 

時間をかけた選考は手間もかかり、体力も消耗します。効率が悪いと感じられる方もいるかもしれません。しかし、時間をかけることで、5分ほどの演技審査だけでは見抜けない伸びしろが見つけられることもあります。

 

舞台は1~3ヵ月ほどの期間で作られます。長い稽古期間を共にすれば、初めはお互いに好印象だったのに、ちょっとしたすれ違いからモチベーションが下がったりして、それが全体の仕上がりに影響を及ぼすこともあります。

 

確実に公演を良いものにしていくために、「本当にこの人と最後まで一緒に芝居を作っていけるのか」「長い目で見て信頼関係を築けるのか」など、そういった見極めに時間をかける意義は大いにあるのではないでしょうか。

 

質の高い公演を積み重ねていくことは、団体の評判や知名度を上げていくためにかかせない要素です。

 

プロジェクト「Act」Tokyoはまだ立ち上げて2年ほどの団体ですが、評判の高かった過去作品を早くも再演するなど、舞台を一つの興行として成り立たせるために、しっかりと先を見据えた運営をされています。
海外に活動を広げたいという目標の実現に向けて、これからの活動にも期待が高まります。

 

プロジェクト「Act」Tokyo 今後の活動予定

第六回公演「La vita e Bella-とある優等生と壊れた世界」

4月30日~5月4日 平賀スクエア
オーディション開催中

 

第七回公演「堕天使とボノボ」

7月5日~9日 平賀スクエア
オーディション開催中

 

プロジェクト「Act」Tokyo

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